養護施設に問題はないのか、という疑問(7/6追記)

 塾に行けば誰でも成績が上がるのかというとそうではない。オレは「成績が悪いから塾へ行く」という考え方が大嫌いだ。なぜ成績が悪いかというと、たいていその生徒は授業中に教師の話をろくに聞かずにぼんやりしていたり、宿題をしないでゲームばかりしていたりという原因がある。その原因を排除しないで塾に通わせても、学校の授業をますます軽視するようになるだけである。オレはこの読売新聞の記事を読んで唖然とした。

江草 乗の言いたい放題 公費で塾に行かせようとする馬鹿

 ここまで読んで、普通の公立中学の話だと思ったのだが、引用されていたニュース記事は

 厚生労働省は、児童養護施設に入っている中学生に塾の月謝を支給する。

 都道府県と半額ずつ全額を負担する。来週中にも正式通知する。
 親の生活苦や虐待などの理由で施設に入る子供たちの学習の遅れが指摘されており、「学習環境が十分でない」とする施設側の要望に応える。
 厚労省家庭福祉課によると、3000人の塾通いを想定し、塾の月謝に使うことができる費用として今年度は7280万円を充てる。4月分からさかのぼって支給する。
 児童養護施設に入る子供に、給食費や教育費などの費用が国と都道府県から支給され、中学生は教材費などの加算はあるが、塾の月謝に充てることはできない。
 一方、厚労省の調査で、児童養護施設の子供の約26%に学業の遅れがあるとする結果が出ている。全国児童養護施設協議会は、学習費の拡充を求めてきた。
 厚労省は、「中学生の塾通いはもはや一般的となっている」と認めることにした。
 都内などでは先行して塾通いを始めた施設の中学生もおり、都は6月までに請求があった8施設に計約100万円を支給している。
 東京・練馬区児童養護施設「錦華学院」は、1人約3万円の月謝で2人の中学生を塾に通わせている。土田秀行施設長は、「施設は日常の業務に追われ、学習指導では宿題をみるのが精いっぱい」と話している。
 厚労省家庭福祉課は、「学習機会を一般家庭と均等にし、学習意欲を高めたい」としている。
(2009年7月2日05時22分 読売新聞)

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20090702-OYT1T00001.htm

だった。
 養護施設に入る子に限定されているのだが、養護施設の子の生活実態を調べないで、「なぜ成績が悪いかというと、たいていその生徒は授業中に教師の話をろくに聞かずにぼんやりしていたり、宿題をしないでゲームばかりしていたりという原因がある。その原因を排除しないで塾に通わせても、学校の授業をますます軽視するようになるだけである。」という論旨になるのかが私には理解できない。
 養護施設で生活するということは、本当に安全なことなの? 問題はないの? と調べていくと、こんなサイトを見つけた。

キミは体の大切なところを触らせない権利があります
 キミの胸やお尻、性器などを触る権利は、だれにもありません。スキンシップや冗談と言ってくる場合もありますが、イヤならイヤとはっきり言いましょう。
 それでも触ってくる職員や上級生がいたら、断固拒絶しましょう。しつこい場合は、他の職員や警察、学校の先生などに相談しましょう。それでキミが怒られたり、施設から出されることは絶対にありません。
 キミの体は、キミだけのものです。未成年者に対するセックスの強要は、性的虐待という犯罪です。はっきり「ノー」と言い、「これ以上近づくと、他人に言います」とはっきり言えば、手出しはしません。異性、同性ともにです。

がんばれ!養護施設出身者 養護施設で暮らすキミへ

 いまどきのネットでの書き込み風に反応すれば
「ちょwwwww、まwwwww」
って感じだ。
 こんなことをそこで暮らす子どもに読ませたい・読んで知ってもらわないとならない、というということは、そういう現状が存在するから、ではないのか。だとしたら、そこで生活してどうやって勉強なんてできるんだろうと私なら思う。勉強より身の安全が先って状況だと私なら思うのだが。

 いや、江草氏が問題として指摘するところが、「本人を塾に行かせるのではなく施設の職員の人間としての教育が先だろう」とか「親世代の環境を整えることに金を使うべきだ」いうことならば、納得できる。だが、氏の問題とするのは「本人の努力」。
 公の機関である養護施設の機能の問題を指摘せず、個人にのみ問題を帰結させているところが納得できない。



 「学校は小学校や中学校の学習指導要領で定められた内容を体系的に学習するための場所だが、塾は問題を解く技術だけを教えてくれる所である。」というのも、それって受験専用の塾で、底上げ型の塾っていうのが昔から存在するんだけどなぁ、ご存知ないのかなぁと思うわけである。底上げ型の塾っていうのは、先生に聞いてももう追いつけない子がいくところで、受験専用の塾とは教え方も勉強の進め方もまったく違う。それとも今はそういう塾ってもう存在しないの? とかも思ったけれど、それはまぁ蛇足。余談ってやつよね。

【追記】
 前回書いたのがここまで。

 ここまでだと「養護施設側にすべての問題があって、だから勉強できないんだ」という論旨にとられそうだ。なので続きを書く。こっちのが本当は「あの新聞記事を読んで書きたかったこと」。前半は「新聞記事を知るに至った記事を読んで思ったこと」だからね。ま、タイトルもそっちに掛かっている。だけど個人の日記に反応している場合じゃないくらい、あの記事は情報不足で読み手が判断するには足りない内容なんだ〜ってことのほうが問題なんだよ! っていうのを走り書きして書き落としていた。

 個人の日記を読んで最初に思ったのは「その日記だと『自己責任なのに、塾かよ!』って読めるんですけど〜、本当にそうかどうかの調べてから言ったほうがいいんじゃないでしょうか〜」だった。
 で、「養護施設 勉強 問題」でぐぐったらあらま、違うものが出てきちゃったというトコロで一応エントリーをupした。←前回ここまで。

 言っておくけれど、養護施設、でググるまでもなく、一生懸命こどもの支援に力を注いでいる養護施設の職員の方もいらっしゃる。こどもへの無視・無関心を含む虐待を行う施設が一般だ、なんて思ってはいない。そこは取り違えないでいただきたい。「たいていその生徒は授業中に教師の話をろくに聞かずにぼんやりしていたり、宿題をしないでゲームばかりしていたりという原因がある」に対して違和感を覚えて、反論を書く時の一例として挙げただけだ。もっと言うと、養護施設に入る以前に家がゴタゴタしているのに学校に来て授業中にぼんやりしない、勤勉で聖人君主なおこさまなんて、そんなに多くないんじゃないか? と私は思う。

 で、ここからが本題。大本の記事に戻ると、「約26%に学業の遅れがあるとする」とあるが、

    1. 養護施設に入る子供たちの学習の遅れが指摘されており、と文中にあるが、「だれがどのように指摘していたのか」、厚生労働省管轄の施設側からだけで、学校側からは指摘がなかった、ということなのか。
    2. 厚労省の調査で、児童養護施設の子供の約26%に学業の遅れがあるとする結果が出ている」とあるが、それ以外の一般家庭の児童は、何%の遅れなのか。遅れというのは人数なのか、理解度の進捗なのか、調査方法が分からないし、比較対照もはっきりしない。
    3. 塾以外の方法についての検討とその回答はなかったのか。 例)職員の人員増 例)学校での補習
    4. 学校教育の遅れをなぜ学校で取り戻せないかという話が出いない。読売新聞としてはこの議論はもう終わったということなのか。いったん学習に遅延が生じたこどもは、学校では救えないことが「当たり前」だから新聞ではそれに関する記述がなかったのか。

 以上について、読売新聞社窓口から問い合わせたけれど返答はまだない。ずっとないのかもしれないし、月曜日に受け付けてこれから返事が来るのかもしれない。

 だってさ。遅れたのが現代国語や漢文1学期分でも「社説を読んで設問に答えよ」的な問題への解答ができなくなったりはしないと思う。けれど、数学が1年遅れたら自習で取り戻すのは難しい。もしかしたら2年分3年分かもしれない。この点が記事では伺えないし、そこを調査したかしないかすら書かれていない。児童養護施設に入るっていうことは、それ以前から何らかの問題があって家庭で児童が保護されていなかったということで、その期間が長ければ長期にわたって学業に支障が出る環境にいた可能性が高いわけでしょ? その結果、学校教師や施設の職員による支援ではもう間に合わないくらい遅延したっていうことじゃないの? そうじゃなくて、勝手に勉強していないんだあったら普通の家庭にいてもその子は同じくらい遅延したんじゃないの? という疑問がわく。
 そこいらへんに、あの記事はなんら回答をもたらしていない。
 つまりあの記事は資料としては不明瞭な点を含んでいて、何かを断定したり論じたりするのにふさわしい記事になっていないとい。それが私がこのエントリーを書いた大前提。

 私は天邪鬼なので、こういう「不明瞭な記事」を見ると『実は答えありきで施策したんじゃね?』と疑ってかかる。つまり「他に原因ややらなきゃなんないことがあるけれど、それに手をつけるのが大変だから、とりあえず簡単にできることをやってしまえ」「簡単にできるのは何か」「そりゃ名目つけて金出すことだろ」とかね? 例えば、ですよ? あくまでも「例えば」。
 じゃ「他に原因ややらなきゃなんないこと」は? っていったら、施設側ならば人員補強が実は前々から必要だった、とかはないのか? だし。施設に入るってことは引越してるってことでもともとの学区とは違う教科書かもしれない。教書が違えば進捗も違うけれど、転校生の進捗が違うから特別授業をしている、なんていうのは私の時代にはなかった、それが今でも変わってないとしたらそりゃ「学業の遅れ」は当然でるわけだ。そっちに力を入れてない学校に問題はないの? っていうことになる。 
 今年(2009年)に入って東京都大田区で希望者を対象とした算数・数学の補習が行われるということでニュースになった。これは学力の高い生徒をさらに伸ばすことにしたもの(有名なのは杉並区立和田中学校の「夜スペ」とか、大阪の豊中市立第七中学校だよね)とは異なり、「基礎的な小テストを行い、一定のレベルに届かなかった希望者に補習用ドリルで指導」という底上げ型。
 教員の負担を考えて、教員資格を持つ塾講師等200人を登用するということで話題になったけれど、逆に言えば、『授業の理解の遅れに対応するには、教師が不足していたってこと』ではないかという議論は書かれていない。教育は聖職だから、休みもとらずハタラケというアホと人間的に暮らしたいという教員と、実際真面目にやれば土日だって教材の用意で死にそうですという現場の事情があって、どの視点で書いても書き手(例えば新聞)は苦情を言われるから書かない、というふうに見える。この辺、過酷労働の大学病院の勤務医とかと同じニオイがする。医師教師は聖域だから実情はどうあれ理想で語り、外れたものは見ない・排除、的なナニカだ。

 で、そういう部分には触れないで、いきなり『馬鹿』とサブタイトルに記載した文章。だからオカシイんじゃないの? と思ったわけだ。

 こんな記事、読んでもなんもわからない。
 読んで判断するには情報が少なすぎる。webでだったらリンクだってなんだって貼れるのに、『調査』がどういう調査かも明らかになっていない。だから何かを「馬鹿」と論ずるには足りない、と思うのが普通じゃないのか? というのが私の主張だ。

 新聞がだめなら、大本のニュースソースである公の機関を見てはどうか? といわれそうだ。厚生労働省ホームページで「児童養護施設」とか「塾」のキーワードでこの記事に関する問題を調べても何も引っかかってこない。
 記者発表したってことは、ニュースリリースを作ったんだと思うんですが、それすら見つからない。何を考えてるんだ? 厚生労働省。記者になんか発表したなら、裏づけ見られるようにしてないと、あかんやん。

 ということで、本日の結び。
 私も「読売新聞の記事を読んで唖然とした」。それは塾に金を払うことではなく、「書くべき情報を書かないで記事を掲載する読売新聞の編集部と厚生労働省広報」の情報提供に対する意識の低さに対して、だ。

 追記なのに、なげ〜よバカ。あ、このバカは私のことね。

※変更
7/5 文中リンク先を日記本体から記事に変更。